『 原稿を書くために、僕自身も数年間お茶の世界をのぞきました。
四畳半の茶室で客は僕と編集者の二人だけ、というとき、
これまでに体験したことの無いような心地よさを感じたのです。
少しのお料理とお酒、そして濃茶をいただいて、たったそれだけなのですが、
心の底からゆったりと蕩ける(とろける)ような、それでいて、爽やかな・・・。
しつらえとか距離感とか、すべてが心地よい。
茂木健一郎さんは「胎内回帰」とよんでいましたが、
茶室というのは、どこかそんな感じのする空間なんです。
たぶん、人は時にそういう「異界」の存在を必要とするのだと思います。
そして、本当は絵一枚、花一輪でも異界をつくることは可能なのです。 』
ルピシアだより2009年6月号 直木賞受賞作家 山本謙一氏談より
「はぁ〜〜〜」とか「あぁ〜〜」とか。
自分の奥底にある、なにか塊みたいなものがふっと緩む瞬間。
私たちが生きている空間のなかには、
そんな瞬間を感じ取れる「異界」という名の空間が、ぽっと存在しているのでしょう。
それは、きっと特別で希少なものではなく、
感性が開かれていけば感じ取れる距離に、それこそ無数に存在するもの。
そんな気がしています。
とある古民家の庭で出逢った、八重咲きのどくだみ。
出逢った時の、はっとして、グッときた(トシちゃん??)瞬間も
異界の入り口だったように思います。